論理学の歴史資料 2016.10.03
シラバス
本講義の目的
アリストテレス以来の西洋論理学の歴史に就いて,
- (a) 現代の記号論理学に繋がる系譜と,
- (b) 日本における第二次世界大戦までの論理学受容の系譜,
の二つを解説する.
第2次世界大戦の日本では、すくなくとも現在の日本では、「論理学」というと「記号論理学」のこと。伝統論理学という古臭いものが廃れて意味がなくなり、新時代の科学的論理学である、記号論理学にとつて変わられたというのが通常のイメージ:
- 日本語 Wikipedia の論理学
- 「現代の論理学」という表現に注意!
- ただし、「現在の論理学は、(それを論理学であるとするなら)数理論理学と、数理論理学をふまえた論理学、数理論理学でない論理学に分化している。」という文章も見られる。
しかし、英語圏だと認識が違う:
- 英語の Wikipedia の Logic
- 伝統論理学である Syllogistic logic が、記号論理学と並置されている。
- ただし、"Today, some academics claim that Aristotle's system is generally seen as having little more than historical value (though there is some current interest in extending term logics), regarded as made obsolete by the advent of propositional logic and the predicate calculus."という文章も見られる。とはいうものの、"some academics"。
この様に、第2次世界体全以後の日本、特に、現在の日本では論理学のすべ てを現代記号論理学の立場から理解しようとする傾向が支配的で、論理学史も例外ではない.これは伝統論理学が文化に深く根を張っていた欧米と異なり、日本では伝統論理学も輸入された新しい知識に過ぎなかったことがひとつの原因と考えられる。
しかし,記号論理学以前の論理学は,クリティカル・シンキングや,ITのオブジェクト指 向などの「実用的分野」の中に現在も生き続けている。
また、アメリカの大学では、いまだに伝統論理学が論理学の基本として教えられている。
- 記号論理学と伝統論理学の両方が教えられるというパターンが多いらしい。
- アメリカの大学で良く使われていると思われる textbook を実際に見る。
ちなみに、日本でもクリティカル・シンキングと関連づけて伝統論理学の復活について議論がなされることがあるが、その様な意識を持っている人たちは、未だに非常に少数である。
一方で,記号論理学は現実と乖離している.
上で赤字で強調した三つのことと、その理由を理解してもらうのが(a)である。
また,この思想史的な観点から,日本人が明治時代に輸入された「論理学」というものと,どの様付き合ってきたかを明らかにするのが(b) である。
この(b)については、二つの具体的事例を見る。
- 明治の一大論理学ブーム:伝統論理学の教科書を書いた明治の政治家尾崎行雄。
- 日本独自の論理を目指した哲学者たち:西周、西田幾多郎、田辺元、etc.
以上が、講義の大雑把な目的。
その背景にある意図は:
- ヨーロッパ文明から強く影響を受けている現代の文明の根底に「伝統論理学(アリストテレス論理学)」という世界観がある。
- しかし、明治になって、初めてそれに出会った日本人は、この世界観の影響力を見過ごしがちである。
- そのため、職業的哲学者を含めて、ほぼすべての日本人は「論理学」と、その歴史を誤解している。
- むしろ、戦前の京都学派の方が西洋の伝統を正しく理解している。
- その様な「常識の誤り」は、丁寧に歴史資料を紐解いて行けば、それが誤りだと理解できようになる。
- この講義の一つは、どういう風に、そういう「歴史学的研究」を行うべきかという例。(文献の使い方、比較により背後の思想を裏から見るテクニック、文献以外の資料(動画)の使い方など)
- もうひとつは、この「論理学の世界観」が、実は現代のITに世界にまで入り込んでいるということを理解してもらうこと。
- もっと言えば、ITの根底には、本質的に「ヨーロッパ的」なものが入り込んでいるのだ、ということを理解してもらうことが、この講義の大きな目的の一つ。
具体的な話をリストすると(シラバスから):
1.アリストテレス論理学:伝統論理学
2.明治日本の論理学:経国の道具としての伝統論理学
3.記号論理学の誕生:伝統論理学との違いを中心に
4.「新カント派の論理学:現代論理学へのミッシングリンク」という項目は、おそらく時間がなくて、独立した項目として扱うのは無理でしょう。
5.伝統論理学と情報技術・人工知能:おそらく人工知能の話を扱う時間はありません。
6.京都学派の論理:西田幾多郎・田辺元の論理(学)
7.日本人と論理(学):明治、昭和、平成の「論理ブーム」